「痴虫」がトレヴィルから刊行された時、とても驚いた。隠遁生活に入って寡作になっていた佐伯俊男は既に存在が伝説的だったので、新しい作品集を見ることができることはないのだろうと、何となく思っていたからから、「痴虫」を見て圧倒されて、感動した。そんなわけ...



「痴虫」がトレヴィルから刊行された時、とても驚いた。隠遁生活に入って寡作になっていた佐伯俊男は既に存在が伝説的だったので、新しい作品集を見ることができることはないのだろうと、何となく思っていたからから、「痴虫」を見て圧倒されて、感動した。そんなわけで、スナイパー編集部に入ったばかりの頃、かなりミーハー気分で、早乙女宏美さんと千葉県の山奥までインタビューに訪れたのが佐伯さんとお会いした最初だった。
「痴虫2」が出た時、画集の宣伝も兼ねて、雑誌のいちばん最後のページに、絵を一点掲載させてもらえることになって、トレヴィルに原稿を借りようと連絡して、郵便で送られてきたのは、線画にトレーシングペーパーがかけてあって、トレースされた絵に、色鉛筆で細かく色指定が記されているものだった。DTPという概念がなかった頃のことなので、図版原稿をトレースして指定を入れて入稿というのはごく当たり前のことだったが、その細かな指定にびびった。特に描かれている敷物の模様にまで微細に入ってるCMYKの数値の細かさは、今で言えば任意に色を抽出して作成したAdobe illustrator画面でのカラー数値欄みたいなもので、とてもではないが頭の中で完成された絵柄をプレビューすることは不可能だった。



それは色校が出ても校正ができないということなので、これは困った、と思いつつ送られてきた封筒の中を見ると、まだ書類が残っていて、取り出すとそれは完成後の絵柄が刷られた色校だった。というか、印刷物とは思えないほど精緻な図版だった。小さな紙片に、もし印刷所が難色を示すようならば、これを使ってください、というメモ書きが添付されていた。トレヴィル川合さんの心遣いにホッとした。校正の参考にしてくださいということではなく、この色校を図版として入稿すれば?という意味で、私はその方法に躊躇はなかった。後日出た色校の色校にはモワレの心配もなかったのは言うまでもない。

  
「ONIKAGE」Toshio Saeki
Published by Last Gasp of San Francisco
ISBN:978-0-86719-729-7

アメリカのLAST GASPから、佐伯俊男画集「ONIKAGE」が出版されて、記念原画展が行なわれている。サイン会で上京される佐伯さんに会いにスパンアートギャラリーに行く。布貼りハードカバーで370?×297mmの大型本。米国では年末に発売という予定に先がけて、日本で入手できるだけでも嬉しいが、実際の画集の出来の素晴らしさを見るとひとしおだ。
冒頭の二点は本書に数点挿入されている、佐伯さんの色指定したトレペを、改めてトレペに印刷したものの一部分。「痴虫」ほど細かくはないけれど、その丁寧に描かれたトレース画と指定文字を、原画の線画に重ねて見ることができるという構成がスバラシイ。ああ、なんでこの感じに気づかなかったのだろう、と、佐伯さんの画集を編集した過去の自分を責めてしまいたくなった。



線の原画の前には指定紙のトレペが入り、敢えて完成品はナシ。
新郎新婦の画のトレペを見て、脳内プレビューしてみるのも楽しい。



もちろんメインは色付きの画で、これは不思議な構図で好きな作品。なんかファインダーでフレーミングしたかのような不可思議なユーモア。ちょっと珍しい画角。

久しぶりに会った佐伯さんはなんだか年々若返ってるかのような感じで、精悍な雰囲気でした。
画集を買ってサインをしてもらおうとしたら、お前こんな高い買い物して生活は大丈夫なのか?
と心配して戴きました。なんて優しいんでしょう。こんな怖い絵を描いてるのに!




佐伯俊男 画集米国出版記念展覧会は9月6日(日)迄。11:00〜19:00 
最終日は17:00迄なので注意。

ちなみに「ONIKAGE」の気になる価格ですが、6300円です。
決して高いとは思えないヴィンテージ感漂うアートブックです。念のため。













Grabado: 2009-09-04 16:17:00